さて、以前の記事で「とんでもないビジネス指南書」としてご紹介した1冊「隠蔽捜査」。
ご存知の方も多いと思いますが、こちらはシリーズ化されており、文庫版に限っていえば2019年9月現在スピンオフも合わせると8冊が刊行されています。
1冊1冊に人生の教訓として相応しい名シーンや名フレーズがあるのですが、特にこの第2作目「果断 隠蔽捜査2」はそれらの宝庫となっております。
私の好きなシーンとともに教訓を学んでいきましょう!
ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
「果断 隠蔽捜査2」とは?
まずは簡単に果断 隠蔽捜査2の紹介から。
著者:今野敏(こんのびん)1955年北海道生まれ。
出版:新潮社 (2010/1/28)
受賞:山本周五郎賞・日本推理作家協会賞
あらすじ:
長男の不祥事により所轄へ左遷された竜崎伸也警視長は、着任早々、立てこもり事件に直面する。容疑者は拳銃を所持。事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立する。異例ながら、彼は自ら指揮を執った。そして、この事案は解決したはずだったが―。警視庁第二方面大森署署長・竜崎の新たな闘いが始まる。
(「BOOK」データベースより)
前回、息子の不祥事で異動となった竜崎ですが、またしても厄介な事件に巻き込まれます。ただ、彼には「原理原則を貫く」という信念があります。合理性を武器に困難にも立ち向かっていきます。
合理を優先する
こうして署長室に小規模な指揮本部を設けたほうが効率がいい。
「原理原則を大切にすることだ。上の者の顔色をうかがうことが大切なんじゃない」
「小田切首席監察官は、かなり厳しい態度で臨む方針らしいです」
「そうあるべきだ」
竜崎はいつも上記のような対応をします。
1番目は事件が起こった時の通例ではない対処をした際。
2番目はそのままですが、これを実践できる人は、特に日本人には少ないのではないでしょうか。出世のためには上司の評価は不可欠です。そのために「顔色を伺う」ことをしてしまう。
3番目は自身が断罪されるかもしれない、そんな状況下で発せられたセリフです。「悪いことはしていない」という自信もあるでしょう。ただそれだけではなく、例え自分に処罰が下るとしても、下す側の人間には合理性・整合性を求めています。
合理性の追求は現代日本において非常に重要です。しかし、竜崎のように振舞える人がどれほどいるでしょうか。振舞えないからこそ、このような姿勢は見習うべきであると考えます。
自分の気持ちを整理する
「俺は、いつも揺れ動いているよ。ただ、迷ったときに、原則を大切にしようと努力しているだけだ」
何か信じられるものがあれば、そのために戦うのだ。
守りたい何者かがいるなら、そのために戦えばいいのだ。
竜崎の合理性については再三述べてきた通りです。
しかしその実、竜崎も悩むことやどうしたら良いかと思案することもあります。ただ、そんな時にも理性を忘れず、自身の信念を貫こうという姿勢が見て取れます。
「フィクションの中のヒーロー」は多く存在します。竜崎の魅力は我々と同様に迷い悩みながら、それらをヒョイと乗り越えてしまうのではなく「努力」で乗り越えようとしている、そんな人間性にあるようにも思えます。
支えてくれる人の姿勢
「人は命令だけでは動きません。われわれは日常をともにし、信頼しあう関係でなければなりません」
「考慮に値する意見だ。考えておく」
物語も終盤、ついに犯人を追い詰めようかというタイミングで竜崎は副署長から上記のセリフをかけられます。
竜崎は大森署署長という、いわば「一国一城の主」のような存在です。そして警察組織は上意下達が原則。つまり、上席の言うことは「絶対」なのです。
会社組織でも、そういった企業は多いのではないでしょうか。しかし人は機械ではありません。正論では人は動かないのです。「この人のためならば」そういう気持ちが動くからこそ、人は行動を起こすのです。
竜崎は人間らしい感情を積極的に排しようとしているように感じます。しかし大森署に配属されて以来『人間』を獲得していっているような、そんな成長を感じさせてくれます。
この他、竜崎の奥さん(実は結婚しています)の姿勢も非常に素晴らしいものがあります。この作品は是非、ご自身でお目通しいただきたいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(引用箇所は全て『果断 隠蔽捜査2』より)